中国

「中国に人民元はない」田代秀敏著、isbn:9784166605880

昨年末に発売されていた本なので、もしかしたら読んでいる人がいるかも知れません。僕は中国関係の題名がついている本は基本スルーしているのだけど、今日たまたま本屋で著者の名前を見つけて懐かしくなって購入。というわけで、著者はこのサイトの運営者が誰なのかをわからないとは思いますが、勝手に紹介いたします。

以前、bewaadさんのサイト*1で中国の不良債権問題関係とからめた商慣行の違いをコメント欄で延々書いた事()がありまして*2、僕の説明のしかたが悪かったのですが、あまり上手く伝わっていなかったように思います。まあ本当に異質な存在なので日本流(あるいは自由主義圏)の思考法・国家体制・経済体制・法体系の先入観を持って理解するのは難しいとは思います。極論するなら、目の前で起きている事を率直に受け入れるしかないみたいな諦めが必要です。あの時書いた話は、仕事上の実体験(主に東南アジアの華僑経済)がベースではありますが、実は本書の著者とたまたま会って酒飲んだ時に彼の話を聞いて「そう思っていたのは俺だけじゃなかったのか」と確認したことでもありました。

前置きが長くなりましたが、中国で行われている経済活動「もどき」では、日本では考えられないような事がたくさん起きます。普通は中国人を蔑視してしまいますが、個々に接すると決して馬鹿ではないわけです。そこで僕は制度の違いとして認識していましたが、本書ではそれが「中国人独特の思考法」や「共産党独裁体制から来る根本的な制度の違い」が原因であり、またトラブルの多くは「相手も自分たちと同じような社会背景を共有しているはずだという日本人の勝手な思い込み」から起きている問題である事を、「独断的」*3に解説している本であります。彼一流の毒舌で、皮肉っぽく具体例を挙げて解説することで、面白おかしく読んでいるとあっという間に「彼我の間に横たわる溝の巨大さに気づく」という寸法です。末尾の方には、独特の陰謀論めいた指摘もありますが、これは客観的に見たリスクの指摘という事で、意図があるかどうかは別にして真剣に受け止めるべきだと思いました。実際、逆の立場だったら「できる事はやっちゃえ」という奴が必ず出てくる。そういう指摘もある一方で、僕はそれ以上に、著者の中国への母性的感情*4みたいなものも感じた次第であります。

まあ、僕的には著者が熱弁をふるうときの身振り手振りを思い出し、著者が机を手のひらでパンパンと叩いて「だーかーらー○○という事なの!」と叫んでいる様が目に浮かぶようで、大変懐かしく思った次第です。

とりあえず風水の章のところだけ引用しておきます。

北京五輪で中国は国際社会の仲間入りして近代国家になるというのは、日本人の勝手な思い込みである。北京五輪は、北京の風水を強化して、「中華民族の偉大な復興」の追い風とするための祭典なのである。(P.76)

Extreme Torch Relayを見て、まさにそのままの印象を受けましたが、更に風水まで絡めて論じるセンスに脱帽。でも、流れ的には「間違えて龍脈をぶった切ってしまった」みたいにも見え、笑えない状況になってきていますね。なんとも皮肉。

そして、他の章ともあわせて読んで、中国が近代国家の仲間入りをするには、憲法の全面的変更が必要であり、もっとも簡単に行う方法は易○革○ないんじゃないかという現実が良くわかりました(汗)


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*1:正確には旧サイトのアーカイブ

*2:今読み返すと梶ピエールさんのコメントが適切かつスマートですね。僕の方は実体験を伝えようと四苦八苦しているだけみたいな。

*3:鍵括弧をつけたのは、読んでいただいただければわかると思います。僕は著者の癖を知っていますので違和感ありません。

*4:出来の悪い子ほど可愛いみたいな