日本のフィリップス曲線

あまりにも教科書的すぎて最近見る機会の少ないフィリップス曲線です。

総務庁の統計局のデータから、完全失業率(年平均)消費者物価指数(前年同月比)を入手し、1992〜2006年について作成してみました。四半期とか月次でも作れますが、あんまりごちゃごちゃしちゃうとわかりにくいし、ある程度の期間が無いと傾向が見えてこないと思います。

このグラフから、色々な事が直感的に見えてきます。まず日本の自然失業率は2%程度ではないかという事です。1997年の消費者物価のジャンプは、橋本内閣での消費税率アップの影響でしょう。そしてデフレと失業の間には大きな影響がある*1

一昔前の構造改革大好き人間たちが主張していた政策は、アメリカが実際に行った政策に倣ったものでした。その時、アメリカが抱えていた問題は「フィリップス曲線の垂直化」という現象でして、失業率は10%くらいなのにフィリップス曲線が垂直になっていて、あたかも自然失業率が10%もあるようだったという事にあります。失業問題を解決しようと拡張的経済政策*2をとると、失業が改善せずに物価だけが上昇するというものです。これを自然失業率が10%の高率にしてしまう雇用「構造」の問題であるとしたのが、構造問題という呼称の始まりではないかと思います*3。これに対する処方箋が所謂構造改革政策と呼ばれるもので、主に労働組合の固定的雇用慣行を破壊する事が行われました。これがレーガノミクスでありサッチャリズムの正体です。

さて、日本のフィリップス曲線を穴の開くほど眺めてみても、どこにも垂直化の兆しはありません。むしろ、ここ数年は水平になっちゃってるんじゃないかと思わざるを得ないほどです。つまり日本的雇用慣行は実はとても流動的だったと言うことです。「おかしいな?」と思う人もいるかと思いますが、アメリカの流動的雇用慣行はホワイトカラーの話でして、圧倒的多数のブルーカラーは組合に守られてレイオフされても社会保障をもらいながら順番待ちしていたのです。日本は、ホワイトカラーは年功序列ですが、ブルーカラーは結構流動しています。ブルーカラーが多い会社は中小企業が多く、年中起業廃業していますし、トラック・タクシードライバーのように参入退出が活発な労働市場もそれなりにあります。パートの市場なんて、専門能力を持たない人たちばかりですから、給料と拘束時間・大変さでガンガン人が移動していきます。社会を運営している人はホワイトカラーばかりなので、この事に気づかなかったのではないかと思う次第。

というわけで、日本で労働規制を緩和すると、「タコ部屋問題」が復活してしまうというのが、日本が抱えるブルーカラー労働市場超流動性の問題なのでした。労働組合は嫌いですが、ザ・アールの人はもっと嫌いです。

閑話休題。まあ、要するに物価上昇率がマイナスよりは、プラス1〜3%くらいが良いというのはこういう事なんです。少なくともデフレの状態よりは、労働者を効率よく使いきっているという事になるわけですから。

(注記)グラフのタイトルが間違ってますね。平成4年〜平成18年ですorz

*1:この事がフィリップス曲線の一番重要な点ですが

*2:金融緩和と財政支出の増加・減税

*3:違ったらすみません