「流通コスト削減で低価格を実現しました!」という宣伝文句

流通に携わるものの良心で言うと、流通コストは魔法の杖ではありません。原料〜小売店店頭までという幅で考えると、どんなに頑張っても1%もコストダウンできません。途中で区切ると、見かけ上価格が上がったり下がったりするように見せる事は可能です。

例えば、農家の人が自分でお店まで持っていって売るファーマーズマーケットの形態はコストダウンできますが、流せる量・品種・場所に限りが生じますので、何らかの機会損失を生みます。もとより、コストを消費者側の機会損失に強いていますので、「暇な主婦がたまたま近くに寄ったから」という「ながら来店」で成り立つ売上高を前提にしたビジネスモデルで、流通バリエーションのひとつとして無くなる事もなければ、あまり大きくなる事はないでしょう。

例えば、業者が各店に納品する価格と、DCセンターに納品し後はDCに任せる価格では、前者の方が高くなります。たいてい物流費で2〜30%くらい違うと思います。そうすると、新聞発表などではDCセンター導入で2〜30%コストダウンとなるわけです。たしかにDCを設置すると見かけ上、業者の物流費は下がり納入価格は下がります。が、一方でDCセンターに費用が発生します。トータルでどっちが得でしょうという話になります。

一般的に、大手になればなるほどDC型の方が安くなるので、規模の経済があると言う人がいます。が、実際にはこれは単なる長期供給曲線のシフトでU字型費用関数が1回だけ右下にシフトしますよというだけの事。そして大きくなりすぎるとまたまたコストアップします。エリアが広くなりすぎると、そもそも問屋もDCなので他の会社と共同して1つのDCに乗っかった方が安くなります。これが問屋業ですね。恐らく最適規模は、地域一番のリージナルスーパーあたりで、全国にまばらに出店しているナショナルチェーンにはメリットはほとんど無いでしょう。
さらに細かく分析すると、DCは販売店側が運営していますので、コストダウン圧力が弱くなるという問題を生じます。そして非常に多いパターンですが、DCセンターの費用をセンターフィーと称して業者に負担させると、コストダウン圧はなくなり営業外利益の源泉(笑)となります。業者は負担されたコストに見合う価格で販売するようになる(転嫁できなければ赤字で淘汰か、別の顧客を探して乗り換えます)ので、結果的に流通はコストアップしやすい体質になります。IYはセンター方式をいち早く導入し、そして弊害に気づき、いち早く止めました。ダイエーは後追いで導入し、営業外利益ツールとして手放せなくなり業者離れを加速させてしまい、店頭の品揃えの劣化を招きました。
逆もあります。食品流通の大手は、囲い込み戦略の一環としてDCセンターの運営代行をしたりもします。運営代行をしていると、価格・量の情報は圧倒的に大量に入ってきますので*1、その後の競争を優位に展開できる。DCで「問屋の支配から逃れて」なんて思っていたら、逆に支配されていましたなんて事も良くあります。

逆に成功例を見ていきましょう。センター方式というとウォルマート。彼らはサンベルト地帯の新興住宅地に対して分譲開始と同時に出店攻勢をかけるための補給路としてセンターを活用しました。軍隊用語のロジスティックスとして活用したわけですね。ストライカーが展開し地域を確保し、C-130をガンガン飛ばして補給基地を作りつつ、後続の主力部隊に切り替えて戦線を作って、そこから本格侵攻する。その補給基地としたわけです。ウォルマートはこのようにDCを合目的的に使いました。ネット入札のような方法も、僕は安価を実現する事が目的ではなく、拡大するウォルマートについてこれる供給者がいないために、広く門戸を開放してとにかく量の確保を優先する目的で発達したと思っています。が、サブプライムローン問題の発生とともに住宅着工が減少し、これまでのような拡大路線が見込めなくなる中、彼らのやり方もこれから変わっていくと思ってみています。入札=安価というような、買い手独占戦略にシフトし、店頭の劣化が浸透し停滞していくと想像しています。それを超える目標を設定できたら、凄い企業だと思います。
もうひとつがセブンイレブンセブンイレブンといえばドミナント展開でして、最適規模を強く意識した上での地域ごとの展開ですね。

現時点で、物流コストが世間水準から圧倒的に遅れているのであれば競争不利になりますが、そういう会社はそもそも淘汰されつつあります。劣った会社が普通の会社になる瞬間には物流コスト削減も寄与します。しかし優れた会社数社の中から1社だけが競争優位になりえるほどの差異はありません。このような広告を見かけたら、どこかで何かを誤魔化している証拠だと僕は思っています。

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*1:だって通過商品の伝票を全部見る事ができるんですよ。見れなかったら費用の請求ができませんしね。