高校生の政治経済のおさらい

確か政治経済の授業だったと思うけど、「経済は発展すると、第一次産業から第二次産業へ、第二次産業から第三次産業へ比重が移っていく」と習いました。先ほどwikipediaで調べたらペティ=クラークの法則と呼ばれているそうです。習ったのはもう20年以上昔の話です。ところがテレビ・新聞や日常会話で出てくる話を聞いていると日本は製造業が中心で、製造業の発展が日本の成長の原動力だと力説する人が多い。そこで、実際のところがどうなのか、ちょっと調べてみました*1

さて、産業分類別のGDPですが、これが載っているGDP関連の統計は県別経済計算しか見つかりませんでした。これはかなり速報性が低い統計でして、現時点では2005年までの分しか見当たりません。中身は、一応、暦年の実質値のようですが、各県の値の集計が全国にならないとか、色々癖がありそうです*2。で、その結果は、

なんてグラフが書けました。このグラフからは
1.日本における第三次産業の比率は70%以上(2005年時点で73%強)
2.この比率は現在も上昇中
という2点が読み取れると思います。やはり、ぺティー=クラークの法則は成立しているようです*3

続けて表を眺めていたら、第三次産業の成長率がGDP成長率に与える影響が大きそうな気がしてきました。そこで、寄与度分析をしてみます。

ありゃりゃ・・・。
1.景気拡大期は、第三次産業の増加の影響が大きい
2.景気後退期は、第二次産業の悪化の影響が大きい
3.第三次産業は、景気後退期もほとんど前年対比を維持している
というわけで、構造改革などやろうとやるまいと日本は順調に経済のソフト化が進んでいる真っ最中のようです。

特に目を引くのは2001年のマイナス成長。ITバブル崩壊の頃*4ではありますが、同時期に日銀もゼロ金利解除*5をしていました。タイミング的には利上げがクリティカルヒット*6になっちゃったようにも見てとれますが、国民経済計算の方をざっと眺めた感じでは輸出減少分*7と住宅投資の減少*8のコンボのようであります。

さて、ここまでで思ったのは、2006-2008年が早く見たいという事です。日銀のゼロ金利解除とサブプライムショックの影響がどう出てくるのか。特に2008年末からは第二次産業が壊滅的な事になっているでしょうしね。「丑年は良い時は激しく良いが、悪い時は激しく悪い」と言うネタを、先日の某賀詞交歓会の挨拶で聞きましたが、今年はやっぱり後者でしょうね。悪化の具合は2001年を参考にして・・・どのくらいの倍率を考えればよいのやら。日銀がゼロ金利解除したのではなく、遅いとは言えゼロ金利に復帰したタイミングだというのが救いではあります。どうせお互いに景気が悪いのですから、テーラー=溝口介入のような事を、日米英欧同時に行って為替の影響を相殺しながら、非伝統的なルートで世界規模で金融緩和をするという手もあるかも知れません*9

P.S.
さて、こういう話をすると、いかにも第二次産業が重要ではないように捉えられてしまうかも知れませんので、若干の予防線を。恐らく経済に強い関心を持っている方の多くは、その関心のきっかけは、株式による資産運用*10だと思います。株式市場においては、「付加価値が大きく経常利益率が高い」、「投資案件が多く資金調達の頻度が高い」「技術革新などで簡単に企業の栄枯盛衰が起きる」「景気感応度が高い」という事から、製造業は第三次産業と比較して個々の企業に対するニュースの数と、そのニュースに伴う株価の裁定頻度が高いため、より利益を得ようとした際には相対的に重要である事は疑う余地もありません。一方第三次産業系は、いわゆるディフェンシブ銘柄が多く、経済危機、敵対的M&Aの対象となる、粉飾決算、そして無理やりな拡大路線の発表でもしなければ、ほとんど脚光を浴びないのは、当たり前の事です。その点を否定するつもりは全くございません。
ただ、マクロ経済動向を見るにあたっては、それだけでは片目を瞑っているようなものじゃないかなと、思ったりする事があります。目的が違うので、同じ数字でも着目する範囲が違うという事ですね。

もう一つ予防線を張っておくなら、産業分類というのは、コーリン・クラークさんが当時*11の産業を恣意的に分類したものでして。IT産業や公的部門、銀行などが第三次産業に全て入っていたりして、ある意味「その他に該当する産業の種類が増えて、いつの間にか73%になっちゃいました。」と言っているようなものでもあります。というわけで、この話はこの辺で。

(追記)
econ2009さんのEconviews-hatena ver.∞にて「岡田靖「目立つ輸出産業の急速な調整、懸念される危機感のギャップ」(インサイトコラム)を読む。」という記事がアップされています。

「97年危機」の新規求人数の減少に大きく寄与していたのは製造業、建設業がメインであったのに対して、今回の景気後退局面で特徴的なのは圧倒的にサービス業のウエイトが高いという点である。規模別に比較するとこの新規求人数の減少は29人以下を中心とした小規模事業所において生じており、この点は「97年危機」と同様だが、今後一定のラグを伴いつつ、製造業の生産停滞がサービス業に波及することでサービス業において雇用削減の動きが本格化し、景気後退が広く実感されるようになる可能性が高いことを統計指標は示唆しているのである。以上のような認識に立ってみれば、生活不安除去のための対策といったものではなく、大規模な需要創出策を早めに発動させることが必要であることが理解できるだろう。

との事で、今回は「第三次産業は悪くても前年維持」とは言えないかも知れないと思いました。というか、全く楽観できませんね。

*1:というか、一昨日のエントリーで、内需系のGDP比を75%程度なんて記憶に頼った山勘で書いてしまいましたので、それを確認する意味もあります。

*2:詳しくはこちら

*3:というか第一次産業ペタヒドス

*4:ITバブル崩壊は2000年春、エンロンショックは2001年12月以後

*5:2000年10月

*6:Wiz流に言うならDecapited

*7:外需落ち込み

*8:利上げに伴うローン金利上昇

*9:それってプラザ合意っすねw

*10:まあ、要するに博打ですね。

*11:wikipediaによれば1941年らしい