ラッキョウの思い出

地産地消ネタでもう一つ。

農家のお婆ちゃんなどが漬ける梅干などは、市販の品と比較にならないほど美味しい。知っている人は知っているおすそ分けの味である。地域ごとに味の嗜好の差というのもあり、みなが口を揃えて、自分の地域のものが一番旨いという世界である。

今年の年初に地元の県産食品コンクールのアドバイザーという名目で試食に参加をさせてもらった。その時に、あるお婆ちゃんが、余った土地で自家用に作ったラッキョウを漬けたラッキョウ漬けを出品していた。食ってみて、あまりの旨さに仰天した。本当に絶品である。思い出すだけで涎が出てくる。もともとラッキョウ好きではなかった僕がいっぺんでラッキョウ好きになってしまった。他にも美味しいものが幾つもあったが、一つ試食すると口直しにラッキョウを一個と、結局その日だけで何十個もラッキョウを食った気がする(笑)

生産性アップやコストダウンの工夫を一切していないのだから、旨いのは当たり前といえば当たり前。少量のバッチ生産なら手間もかからないけど、製法を守って本気で事業化しても出来は安定せず。価格も通常品の数倍では下らないことになるのかなぁ。その時は、お婆ちゃんに「これ幾らで売るの?安定供給できる?」と聞かざるを得ず、お婆ちゃんは当然売り物にする気などさらさらなく、美味しいものを食べてもらいたい一心での出品だったようだ。結局ロクなアドバイスもできず仕舞い(僕は元々アドバイスできるような立場ではなく、枯れ木も花の一員ではあるのだけど)。広告代理店とタイアップして名物ブランド化するしかないなぁと、思いつつ、そんな事をこのお婆ちゃんに奨めても意味無いし・・・と、大変勿体無い思いをしたものであった。地元での販売を前提にしたコンクールという事で、自家製品の参考出品扱いとなり選外になったが、味は間違いなく一番であった。
ゴマ鯖の粕漬けも絶品だった。味付けして粕をまぶしただけの似非品ではなく本気で長期間樽漬けしたもので、カビなどで失敗することも多いらしい。ゴマ鯖を利用したのは、真鯖と味が変わらないのに価格が安いからとの事。こちらは生産者が売り物にする前提で作ったもので、コンクールで2位となった。1位になった餃子も旨かったけど、個人的にはラッキョウ1位、鯖粕漬け2位、餃子3位の順だった。

もし農家のお婆ちゃんが、小遣い稼ぎというか、自家農作物の付加価値アップという視点で、ファーマーズマーケットなどで品切れ御免で売りに出したら、どうだろう。僕は多分、所謂メーカー品を買う事はなくなっちゃうんじゃないかと思う。そして、今日は出ていないかと、店舗を巡回ルートに入れちゃうんじゃないかと思った。

商売の基本は、毎日安定して同じ品質のものを供給し続けられること。そう言われているけど、そうじゃない物もあってよいのではないか。安定品質安定供給というのは、大量販売小売を前提にした話ではないか。大量販売の流通ルートに載らないし、載せられないだけで、首を長くして待つような品にも、大きな存在価値があるよなぁと思う。

余談だけど、「メザシの土光さんが食べていたメザシは幾らの奴だったんだろう?」というネタが某掲示板で盛り上がったことがある。メザシなど干物の類は安い食い物の代名詞のように言われているけど、これも本気で昔ながらの製法で作っているものは、価格も10倍、味もスンバらしいというものがある。主に贈答や土産用となっている。一回食うと、スーパーで安売りしている干物は食えなくなっちゃいます。メタボリックを気にしなければメザシ一匹でご飯3杯は行ける。土光さんがどんなものを食っていたのかわかりませんが、仮に価格も10倍クラスのものを常食していたのなら、それは質素倹約ではなく、年齢柄枯れた味わいを好むだけで、とんでもない美食家であるという事になるわけです。