地産地消と変わり始めた流通ルート

最近、地元ではファーマーズマーケットという形態の店舗が結構流行っている。これは農協などが場所を提供し、農家の人が自ら野菜・果物などを陳列し、売価の数%を農協が手数料として取り残りを農家に支払うもの。所謂直売所の発展形で、鮮度が良い地元の安心できる食材が安価に買えるという事で、自炊派の主婦の方には結構人気があるようだ。野菜・果物などが中心ではあるけれど、港町近くのファーマーズマーケットでは魚介類も売られている。農協は比較的低いリスクで純利が上がるし、流通ルートが狭まって安価になってしまった卸市場経由での販売を逃れ、中抜きにより農家も高く売れるという事で、市場関係者と大手流通を除くと地元民はみんなハッピーとなっている。小売店もこの動きを察知して、北関東のスーパーなどでは、いち早く店舗内にファーマーズマーケット類似の形態で、産直野菜コーナーを作ったところもある。また、農協同士で農産物のスワップ取引の契約を結んで、自らの地域に不足している商材をお互いに補い合うようなことも行われている。

ここ数年、地方の卸市場は閑古鳥が鳴いている。景気の地域格差か、それとも情報が密になり東京の市場の価格の違いが認識されたからなのか、地方の市場をスルーして築地・太田市場などに商品が出荷されるようになり、この事が地方市場の魅力低下をもたらしていた。同時に大手の契約栽培などで市場外取引がどんどん増えており、こちらも地方市場の魅力の低下に拍車をかけていた。市場の倒産も結構あり、与信関係の情報誌でも、どこどこの市場がヤバイらしいと年中噂になっている状況だ。
しかし、東京の市場をハブとした集中型の流通システムでは、一番良い品が東京で消費されてしまっていた。地方は購買力が無いし、行って帰ってくるためのコスト負けもある。行き来に2日程度かかることから鮮度面でも不利である。そして東京に出す商品の利益は結局のところ農家ではなく流通業者が持っていってしまう。こんなところがだんだんと嫌気されてきたようだ。それなら、流通を廃して地元で売った方が利益につながる。消費者も、一般の小売店より安くて鮮度の良い品が買えるのでメリットがある。農家が直販したら、所謂工場出荷価格での販売となり、通常の小売店の商品から見ると価格差が結構ある。市場に出すより高く売っても十分に安い。
業態は違うが、特農家として成功しているところも多い。通販で直売して、年商数千万円(農業は第一次産業であり、粗利率が異常に高い事をお忘れなく)の農家も出現している。通販は完全にリピーター型で今の所売上も安定しているようだ。

地産地消イデオロギーとして無理やり行われると、それは経済にとって死加重を生じる。しかし、今回のファーマーズマーケットは消費者に受け入れられて、自然な流れの中で起きている。生産性は落ちるかも知れないが、消費者の効用サイドは改善しているのだろう。そうでなければ受け入れられる事は無い。

数年前、同業で集まって今後の流通業者はどうなるんだろうかという話をした事がある。現在寡占的地位を持ち始めた大型小売業の業態は、メーカーの利益を削っている分が生産者余剰を喪失させる点で、独占理論とは反対側の死加重になっている。メーカーとて馬鹿じゃない。値上げの局面になったら、この手のバイイングパワー派の流通業者は手痛いしっぺ返しを受ける事で、ダイエーのような悲劇が繰り返されるかも知れない。こんな話になった。とはいえ地方のリージョナルスーパーは数を減らしており、次の主役になるところというのがなかなか見当たらない。今更、食品小売の業態にて起業をする個人というのも考えにくいという状況で、何が次の時代を担うのかとみんなで首をひねっていた。候補として出てきたのが、当時は元気だったSHOP99のようなコンビニ型業態と、カテゴリーキラー連合による協同店舗だった。この2種類の業態はいまいち上手く行っていない。が、ファーマーズマーケットは、消費者にある程度認知されながら店舗数を拡大している。ジワジワと自然に食材の流通ルートを変えてしまうことから、今後はかなり大きな影響力を持つようになるかも知れない。

ただし、このことには逆の視点も成り立つ。食料自給率は既に40%を切っていて、海外品なくしては食卓はまかなえないのが現状でもある。海外品は、恐らく、外食・中食・加工食品などのルートで主に使用されているのだと思う。これらの加工済み食品の市場が大きくなるにつれて、生鮮品の流通ルートは必要性を低下させている。この事が、地方の市場衰退の原因となっている面もある。もしかしたら、これは自炊が衰退していく中で継続して起きていくであろう流通ルートのリストラクチャリングの、一つに過ぎないのかも知れない。