似非科学の現場とKYとコンプライアンス

とある協同組合でお世話していただいている経営系の名誉教授がいる。武道もたしなみ、倫理観も高く、理論はともかく実務的に一定の成果を収めた事例をたくさん抱えている方で、厳しい指摘も色々されるけど尊敬している先生の一人です。その先生が、凄い発明をした人がいる。俺はいまその実現に協力している。協同組合の講演会でその人を呼んでくるから、お前らも良く聞けという話になった。参加者は50人くらいかな。偉い人、その人の部下など若干の力関係ある人の集団。偉い人はその先生に直接色々指導いただいているので、少なくとも表面上は尊敬を態度に表している。

で、講演会とあいなって、発明者が登場して説明資料をもとにプレゼンテーション。僕は事前に先生からアバウトの内容を聞いていたので、早々に資料チェック開始。もう駄目出しの256乗くらいの勢いで、似非科学臭満載。僕はといえば、昔は理系の学者になりたかったクチで、今現在はまかり間違って文系体育会系臭漂うところにいるわけですが、今でも科学ファン。似非科学ネタで俺に挑戦するとは片腹痛いみたいな迷惑なタイプ。


最後に質疑応答の時間になると、偉い人は疑心暗鬼(内容がわからないしね)になりつつ、先生の顔をたてる質問をし、適当にお茶を濁すような回答をもらったところで終了しました。

で、このままではつまらないと、終わった後に、聴衆側にヒアリングしてみました。大体5分の1は、素直な人で「知らない事を教わった」ことに感動し、「わからないけど何か凄いんだろう」と信じていました。残りの、5分の4は、「おかしい」と思いつつ、色々と顔を立てなければならないので態度保留か消極的に信じるみたいな。先生や上司の顔を潰す人の顔を恐れての態度でした。おっかないので、まだ偉い人と、件の先生には聞いていません。こちらはいずれやるつもり。

構造改革論の時にも「なんでこんな馬鹿な話がまかり通るのか?」となっていたのととても似ています。世の中の物事の決まり方は、「個々人が、自分の知識を総動員し、わからない事は調べて、自己の責任で結論を下す」ような理想的なものではなく、「色々な人の顔をたてて、黒のものでも白と言ってしまったり、態度を曖昧にして誤魔化したりしながら、声の大きな人に引っ張られていく」のだなぁと。で、後になって「実は僕は反対だった」みたいな。そんなものだと今更ながらに痛感しました。

僕はといえば、リアルワールドでも口が悪く、特に経済学関連と似非科学関連は、すぐにやらかしてしまう。前にも、この先生が「お前らも日本経済の課題を勉強しろ」と、マクロのベストセラー教科書を書いた某先生の新刊*1の読書レポートを宿題に出した時に、徹底的に間違ったところを列挙して、「マクロ経済学の試験だとしたら、この本の内容は0点」「前書きの謝辞に出てくる新聞記者がゴーストライターじゃないか」と締めくくった前科もあります。

でも、そういう批判をしっかりしないと、自分の所属する集団がおかしな方向に言っちゃうよね?

役員会が上手く機能しない理由、老害みたいな現象が生じる理由、政治が上手く機能しているように見えない理由、食品・建築などで偽装が一杯みつかる理由、その他もろもろ、みんなこういう時に空気を読んで「声に出して、批判を加える」事を回避していたからじゃないかと思う。

コンプライアンスだ何だかんだ言っても、実際に機能させるのは難しい。こういう「空気を読んだ」行動こそが、適切な批判を止めてしまって、モラルハザードを引き起こすからだ。責任者の首を取る事が流行っているけど、本当にそれだけで十分なのかと思う面もある。

もちろん責任者なんだから、そういう批判が機能する土壌を維持することも大事。だけど、これは本当に難しいことなんですよ。実際、口で幾ら「批判をしてくれ」と言ったところで、真に受けて批判してくれる人はいない。顔色を伺いながら、何か言いたげなところを察知し、誘導尋問して、やっと言いたい事の10%くらいが出てくる程度。また、こちらがそれを取り上げる際に過剰反応してしまうと、他の仲間から浮くことを恐れて急に黙り込んでしまう。自分は適切な批判をもらえているのか?サインを見落としていないか?批判を頭ごなしに拒絶していないか、黙って黙々と働いている人たちは何かを知っていて隠していないか?とても不安になる。隠蔽体質と言っているものの大半は、「空気読め体質」が前提にあると思う*2

組織の存続には組織の構成員全員が一定の責任を負っていなければならない。「自分から問題を指摘して、自分が不味い評価をされるのが怖いから、批判しないのが当然」という態度は、最終的に組織の衰退を招いて我が身に跳ね返ってくる。あとになって、急に「俺はわかっていた」とか言って外野に逃げるのはモラルハザードだと思う。

なんか上手くまとまらないなぁ。

ちなみに、この先生は、書籍レポートの件に関しては、後日「あれは確かにゴーストライターだな」と勉強会の中で認めていただいた。だから今でも尊敬している。間違いを改めるに憚ること勿れ。いまひとつの謎は、このような先生が、何故このような似非科学にハマってしまったのかだ・・・

*1:ISBN:9784532351489

*2:それゆえ僕は匿名掲示板の価値を認めていたりする。王様の耳はロバの耳で出てきた木のウロの役割を果たすから。