毒餃子

●本当に残留農薬
finalventさんのところで小麦粉説が出ていました。
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20080131/1201764326
僕も基本的に小麦粉っぽいと思っています。穀類は長期保管しますし虫除けが大変ですので、たまたま今年1月から使用禁止になる除虫剤(メタミドホスは農薬といっても除虫剤です)を使い切ってしまう目的で流用したかも知れません。当初は、小麦粉にしては被害がピンポイントだと思っていましたが、全国的に被害報告が集まってきているという点、その事から気持ち悪くなる程度から重篤に至る程度まで濃度にばらつきがあった点が想定できるようになってきたので、個人的にはかなり可能性が高くなったと思います。

●犯人探しと再発防止の違い
さて、世間ではマスコミを中心に、仮説に基づく一本道な犯人探しが横行してそうなので、ちょっとだけ意見。犯人探しと再発防止策は別物です。こういうのは犯人が見つかったらOKではありません。責任者に謝らせたらOKという問題でもありません。再発防止のためには下記のような手順が必要です。

まず問題が発生した工程(今回は農家から食卓まで)を全部列挙して、混入可能性のある箇所を洗い出しし、それぞれ可能性を潰していきます。包装に穴は空いていない→出荷以後はありえない。残留農薬にしては量が多すぎる→農場由来は考えにくい。などなど。そして、ある程度絞り込んだところで、それぞれの現場状況を確認し、作業日誌や作業者のヒアリングを行って、混入する可能性を具体的にチェックしヒアリングしていきます。作業者の証言で原因が特定されたら最高ですが、できない事もあります。
そしてここが大事です。再発防止策は特定されたたった一つ原因だけでなく、最後まで候補に残った混入可能性のある箇所全部に対して実施しなければなりません。同じ事が他の箇所でも起きる普遍的な可能性であれば、更に対象を広げて対策をする事が必要です。最初にピンポイントで原因を仮定して、当ててしまうと、再発防止策が漏れてしまうという事です。

これ、航空機事故などで事故調査委員会と警察のどちらが調査の主導をすべきかで良く出てくる問題です。日本には司法取引の制度がありませんので、例えば航空機事故ではパイロットの免責は無く、警察がパイロットが犯罪者であるという証拠を探し、パイロットは隠したくなります。それを見たマスコミはパイロットを悪者にする報道をします。そして最終的にパイロットが起訴されたら皆満足して終わってしまいます。一方、再発防止の観点からは、パイロットに一定の免責を約束し、起きた出来事を全て語らせ、事故の本当の原因を特定していきます。大抵は複数の不運の連鎖が重大な事故となるので、そのうち1つでも防止策がとられれば再発の可能性は著しく減少します。

さて、今回の事件ですが、中国側の日本に対する感情的な問題や、現地の労働問題からくる悪意ある犯行を示唆している人が見受けられます。これは犯人探しの典型です。このストーリーはどうしても混入原因が特定できないときに最後に出てくるものだと思います。所謂ハンロンの剃刀*1です。「農村部の程度の低い労働者がいい加減な作業をして薬物混入してしまった。こいつが悪い。」では、対策にも何にもなりません。

●企業姿勢
中国の工場の作業工程がいい加減なのはわかります。しかし、中国工場を使っていても大丈夫な企業もあります。これらの差がどこで生じるのか、考えてみる必要があると思います。これははっきりと検証したわけではありませんが、中国輸入品で問題を起こしたケースは2種類に大別できると思っています。

一つは、輸入代理店レベルの小さな会社が「安いから」と買い付けて輸入してきたもの。これは中国人が一般的に使用しているものを現地の価格で調達してきたもので、現地の安全レベルそのままです。若干日本使用にする事はあっても箱の表記を日本語に変える程度です。これらには恐らく日本では考えられない比率で問題ある商品が紛れ込んでいます。小さい会社がやっていますので、検査もなおざりなら、商品の質を保証する事もできません。「僕たちは安いものが欲しいというお客さん望みどおりに買ってきただけ」というスタンスです。鉛土鍋は多分このパターンですね。

もう一つは、大企業パターン。異業種参入によるファブレスの所謂メーカーポジション*2の企業です。JTフーズ*3もそうですが、以前はダスキンミスタードーナッツ)などもありました。彼らは、売上と利益が欲しいのであって、食品製造工場を自らの手で運営した事はほとんど無いはずです。まして工程管理のノウハウを持ちません。食品製造業からスタートし、既に一定のブランドを築いている会社であれば、中国に進出しても合弁企業を設立して自らのノウハウを注入すべく運営に積極的に参画するはずです。それをしなければ、ブランドイメージの失墜という形で自分たちに悪影響を及ぼす事を良く理解しています。一方、メーカーポジションスタイルの企業の場合は、とにかく手を広げて安い調達先と、大量購入する売り先を開拓し、これが成長だと考えます。そして「駄目な仕入先は切ればよい。変わりは幾らでもある」と考えます。

厳しい言い方をするなら、どちらのパターンも「僕たちは責任をとらなくて良い」という前提で行動した結果、地雷を踏んでしまったように見受けられるのです。自ら逆選択を起こしてしまったわけですね。

僕の見聞きしている範囲では、上手くいっている会社は、やはり製品を検査できる立場の人が現地に足しげく通ったり、あるいは常駐して検査をしています。委託生産であっても自社工場の感覚で運営しています。これは中国進出企業セミナーで聞いた話ですが、ヤマハはバイクの部品工場を中国に作ったのですが、SARS問題が発生した時に、「社員の安全を考えて日本人スタッフを全員引き上げたら、翌日から不良品率が7割超えて(普段は3割)大問題になった」という事例を聞きました。それくらいの事が現実に起きる人たちを相手にしているので、本気で自社工場のつもりで運営しないと大変なことになるのはほぼ確実だという事ですね。

企業姿勢というのは、曖昧模糊とした概念です。道徳感に訴えても批判としてはあまり役立ちません。僕が食材を買うのであれば、企業姿勢を外形的な基準に置き換えて評価したいと思います。とりあえず言えるのは、「自社製造工場を持ち自社ブランドで売っている」、「製造委託していても、委託先と長期的な取引関係を築き、しっかりと指導をして」という2点を見る事になろうかと思います。
例えば、某コンビニの弁当類はベンダー(委託先)に対して、物凄く厳しい指導をする事で有名です。ノロウイルスが流行れば、作業員が病院で検査を受けて陰性だという証明を貰ってくるまで工場に入れてはいけないとか、フェノール樹脂の環境ホルモン問題の時には道具を全部チェックさせて交換させたりしています。費用はベンダー側負担っぽいので可愛そうではありますが、外形的な基準は完璧に満たしています*4

行政処分は?
さて、最後に疑問。自社製造工場を持っている会社は、普通こういうケースでは操業停止の行政処分を受け業務改善計画が認められない限り操業再開できません。今回の場合、製造工場は中国にある中国法人です。輸入代理店が双日、発売元はJTフーズ*5です。このとき、誰が行政処分を受けて操業停止になるのでしょうか。もしかして、誰もならないのではないかと心配しています。この辺どうなっているのか、知っている方がいたら教えてください。もし、操業停止対象が存在しないとしたら、これは法的な規制が現実の変化に取り残されているパターンという事にもなります。
警察的にはどこかに責任者を作って、業務上なんたらで起訴する事になろうかと思いますが、言ってしまえば人身御供を1人作って起訴すれば終わりです。再発防止策が十分かなんて一切関係ありません。製造物責任で訴訟になるとは思いますが、賠償金が安いと更なるコストカットで十分にペイしてしまう可能性もあります。

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*1:無能で説明できる事に悪意を想定してはいけない

*2:委託生産などで自社ブランドを展開し、顧客に対してはメーカーとして振舞うけど、実体は問屋業

*3:旭化成の子会社の旭フーズが前身

*4:とはいえ、そもそもコンビニ弁当は安全を意識すると、使える食材が限られ、メニューの多様性がだしづらくなります。当該コンビニの弁当開発もすっかり下火になってしまったみたいです。

*5:CO-OPのPBもあります