中国食品と流通業界における逆選択問題

Baatarismさんのところで、とりあげられていました。

僕も2月1日づけの「毒餃子」の記事で一言だけ「逆選択」の指摘をさせていただいたのですが、実際の商取引においては逆選択的状況が大変に多いです。一昨年くらいに、とある(狭い業界の)業界紙で業界展望のインタビューを受けたのですが、できあがった原稿が意味不明だったので、全部書き直してしまった事があります。そのとき、「リバースオークション方式の逆選択について」というネタを書いたら、普通の記者なら「読者を意識してカット」するはずなのに、そのまま掲載されてしまいました。読者の99%は厳密には理解できていないはずだけど、やはり実感される方が多いのか後で結構反響をいただきました。

さて、そもそも論として、僕には中国から輸入しようとする国内企業の対応自体が、逆選択的様相を呈しているように思えます。「中国からの輸入が止まったら日本経済は成り立たない」という人がいますが、僕は「品質低下に目をつぶって安い商品を探してたどり着いた結果が中国だった」のだと思っています。ある一定の品質が最終顧客である消費者から求められているのなら、品質相応の品しか調達しないようにすれば、そのうちに価格が回復して逆選択的状況が回避されます*1。そのとき、国産回帰するのか、中国の品質レベルが向上するのか、どうなるのかはわかりませんが、経済学的には中国の品質レベルが向上してくれた方が、国際的分業の面ではラッキーです。
というわけで、僕は中国側に規制を求めるのではなく、日本側の品質基準を強化していく事が正解だと思っています。供給側を幾ら絞っても、逆選択を許容する土台が残っていると、問題の解決にはなりません*2

とはいえ、前体制の時の中国はマクロ経済学への理解の高さを見せ付けていましたが、現体制はミクロ経済学への無理解を露呈しているようで。「上に政策あれば下に対策あり」と、甘い評価をもらっていますが、この辺の規制の作り方がとても下手です。まあ、日本も上限金利規制とか見ていると下手の仲間ですね。この辺、朱子学などからくる「性善説」思想が邪魔しているんじゃないかなぁと戯言を言ってみる。

さて、中国から一旦離れると、最近多い逆選択の事例は、バイイングパワー(独占的購買力)獲得を目標に「あなたと合体」しまくっている大手流通系の会社のリバースオークション方式*3による調達ですね。ここは逆選択の宝庫です。オークションで落として契約結んでから「やっぱりできません。何とかしてください。」という事態はザラにあります。酷いのは、駄目だった会社にはろくなペナルティーも無く、その価格で他の長期的関係がある会社に「やってくれ」と言い出す事。「本当はサクラなんじゃないの?」といいたい気持ちをぐっとこらえて「残念ながらこの価格で対応したら倒産してしまいます」と丁重にお断りしている担当者も多いかと思います。
また、ダイエーがつぶれた理由の一つに、バイヤーが力を持ちすぎて、逆選択を起こしたというのもあります。メーカーが新商品開発しても、「新商品は売れる上に価格が高い→ダイエーバイヤーは高い品を無理やり安く買おうとする→ダイエーで安く売っちゃうと全国的に低価格が定着しちゃうのでメーカーは紹介しない*4→店頭には古い商品しかない」という流れが起きて店頭が劣化してしまったことで、主婦層から「ダイエーなんて無くても一緒」といわれてしまいました。たぶん、店舗側の人(店長とか)は、再三「売れる商品を調達してくれ」と本部に掛け合っていたはずで、まあ経営判断の間違いと言ってしまえばそれまでですし、ダイエーの場合それがポリシーでしたので、なるべくしてなったのでしょう。同じ状況に陥りつつある会社がいくつか見受けられますが、割愛*5

「信用」というのは曖昧な概念ですが、日本では「長期的取引関係を構築する事で、将来失う損失を認識する」という形で、逆選択の発生を抑制してきたと僕は考えています。日本的取引慣行論の経済学的基礎として誰か情報の経済学的な分析をしてくれないかなぁと思っていたりします。
コンサルとか経営評論の類だと、その時期に優位にあるものの特徴を博物学的に分類列挙して「凄い」と断定するだけですので、普遍的概念になかなか結びつかないんですよね。常に長いものに巻かれている感じ。強すぎるという事は、実は弱点もあるのです。常に需要側と供給側が拮抗しているという事を忘れて、どちらかに心情的肩入れしてしまう人が多いようですが、そう簡単じゃない。2大流通グループに対する批判的分析・将来予想の一つも出してみたら良いのになぁと思うのですが、飯の種ですから難しいのでしょうね*6

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*1:そういう意味で、景気回復と中国問題がリンクしているという指摘には感動しました。

*2:経済学の教科書に「麻薬を撲滅するには?」として記載されている有名な例題に相当します

*3:別にリバースオークションに限りませんが

*4:価格交渉がこじれると無用な軋轢になるので

*5:というか、僕が言うと恨みからくる誹謗中傷といわれかねないのであります。

*6:逆に、僕が言うと、納入業者の愚痴にしかならないのでありますがorz